Climate Witness: Masayuki Kurechi, Japan



Posted on 30 April 2010  | 
秋になると、日本の水辺を訪れる大型の水鳥、マガン。「日本雁を保護する会」の呉地正行さんは大学時代、このガンに魅せられ、以来40年にわたりマガンの観察を続けてきました。日本最大の飛来地、宮城県は伊豆沼のほとりに暮らし、その姿を見つめてきた呉地さんが指摘するのは、伊豆沼周辺に渡ってくるマガンの数が年々増加傾向にあること。そして、越冬の期間が次第に短くなっていることです。温暖化が、マガンの生態に大きな影響を及ぼしているのではないか、と呉地さんは懸念しています。

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私が、宮城県に住むようなってまもなく40年になります。学習塾を経営する傍ら、伊豆沼など宮城県北部で冬を過ごすマガンを観察してきました。
伊豆沼はラムサール条約の登録地に指定されている自然豊かな湿地帯で、多くのマガンが越冬します。ただ、1990年以降、マガンの数が急激に増え、一極集中するという問題がおきています。
また、マガンたちの行動パターンにもさまざまな変化が出てきています。このまま温暖化が進めば、いずれマガンの繁殖地が失われるのではないかと心配しています。

環境の変化に敏感なマガン


私が生まれ育ったのは神奈川県の平塚で、そこではマガンという鳥を見たことがありませんでした。仙台の大学に入り、地図を片手に宮城県の伊豆沼にやってきたのが、マガンに出会ったきっかけです。

最初にマガンを見たのは冬の田んぼでした。
1000羽ぐらいの群れが、落ち穂を食べていました。私が一歩近づくと、マガンの群れはいっせいに首を立てて警戒し、もう一歩近づくと、全群が飛び立ち、空を埋め尽くしました。私は、あれほど大きな鳥が、たくさん野生で生きていることに、とても驚きました。そしてすっかり、野性味あふれるその迫力のとりこになってしまったのです。

マガンは警戒心が強く、環境の変化にもとても敏感な鳥です。
豊かな自然環境がないと生きていけないため、居心地が悪くなるとその場からいなくなり、二度とそこには戻ってきません。
かつては日本全国どこにでもいた鳥ですが、戦後は開発の影響を受けて、生息できる地域はどんどん減っています。逆に言えば、マガンの行動を見れば、今、環境にどんな問題が起きているのか分かる、そんな鳥だと思います。

飛来の時期が変化している


水鳥であるマガンは、夜を過ごす沼が、雪や氷で完全に覆われると生きることが出来ません。北極圏に近い繁殖地の夏は短く、8月下旬になると雪が降ります。そこで、マガンたちはこの季節になると、凍っていない南の国に移動していきます。

ペクルニイ湖沼群(ロシア)を出発したマガンたちが、カムチャッカ半島、北海道、秋田県と南下し、最終的な越冬地である伊豆沼まで、飛行する距離は4,000km。マガンの群れが伊豆沼周辺に到着し、その数が増え始めるのは、10月になってからです。

ところが近年、伊豆沼周辺に到着するタイミングが徐々に遅くなっています。また、マガンたちは春が近づく2月~3月になると伊豆沼周辺から北に帰っていきますが、この時期は逆に早まっています。つまり、伊豆沼周辺で越冬する期間が短くなっているのです。

さらに、「中継地」の「越冬地化」という現象も起こっています。
秋田県の小友沼は、かつては伊豆沼にやってくるマガンが渡りの途中で立ち寄る、「中継地」に過ぎませんでした。しかし今では、それ以上、南の地域に渡らずに、そのままこの地で「越冬」するマガンが見られるようになりました。

マガンが生活できる場所は、真冬の平均気温が0度より暖かい必要があります。平均気温が0度以下になると、沼の水が一日中凍ってしまうからです。
かつて小友沼は、真冬の平均気温が0度を下回っていましたが、データを見ると、近年、平均気温が0度を上回るようになっています。
雪も少なくなり、沼も凍らなくなったため、このことがマガンの行動を大きく変えてしまったのです。

秋と春しか現れなかったマガンが、冬の間も棲み続ける・・・ そんな現象が、秋田だけでなく、北海道などでも起きています。

一ヵ所に集中するマガン


私がはじめてマガンに出会った当時、伊豆沼周辺のガンの数は、5,000羽程度でした。日本では1971年に、マガンを天然記念物に指定するとともに、狩猟を禁止し、保護に転じました。それ以来、徐々にその数は増加しています。1990年以降には、急激に増え、2010年は伊豆沼や蕪栗沼など、宮城県北部で10万羽以上のガンが越冬しています。

この爆発的な数の増え方は、保護の結果、というレベルを超えていると感じています。その理由の一つに、繁殖地での温暖化の影響があるのではないかと思っています。

マガンが繁殖し、巣作りをするのは北極圏に近いツンドラです。繁殖地は、川とか沼が入り組んだ湿地で、マガンは地面に巣を作ります。
温暖化の影響で、春先の雪どけが早ければ、マガンはよりたくさんの巣を作ることができ、たくさんヒナが生まれます。

またマガンは草食なので、雪解けが早くなれば、食べ物となる草の生育量も増え、ヒナの生育を助けることになります。
このように、気温の上昇によって繁殖数が増え、結果的に伊豆沼周辺に渡ってくるマガンの数が増えているのではないでしょうか。

ところが今、マガンの数が急増していることで困った問題が起きています。

一つは鳥自身の問題です。個体数の増加にも拘らず、越冬できる場所が限られているため、マガンはわずかな棲みかに一極集中しています。

伊豆沼や蕪栗沼など、鳥が集中している沼で、もし水の汚染が発生すれば、マガンの群れは、一夜で全滅してしまいます。また、密集している鳥の間に、ひとたびや感染症が発生すれば、やはり大きなリスクとなります。

もう一つの問題は、人間との関係です。
マガンたちは、昼間は田んぼなどの耕地で食物を食べます。しかし、あまりに多くの鳥が一カ所に集まると、農業被害が大きな問題になりかねません。
宮城県北部の幾つかの市では、ガン、カモ、ハクチョウによる稲への農業被害を補償する条例が整備されていますが、それでも鳥が集まりすぎれば、人間との共生が難しくなっています。

そんな中、マガンとの共生とその分散化を目指して、稲刈り後の田んぼに水を張って、沼のような環境を作る「ふゆみずたんぼ」という取組が、蕪栗沼周辺の農家の協力を得て進められています。マガンが棲める水田こそが、生物の多様性の豊かな、価値あるものだという意識が、地元で芽生え、広がりつつあります。

マガンの危機は環境の危機を教えてくれる


現在起きている地球温暖化の影響は、「マガンの数が増えている」という点から見ると、一見、良いことのように見えます。

しかし、日本に渡ってくるマガンの繁殖地(ツンドラ)は、温暖化の影響を特に強く受けると予測されています。このまま温暖化が進めば、ツンドラはやがて森になると言われているからです(*ツンドラの永久凍土が解け、樹木が根を張れるようになるため)。

そうなれば、マガンたちは繁殖できる環境を失い、結果的に、マガンの群れが激減したり、地域からいなくなってしまう可能性があります。
マガンたちの将来を守るためにも、今、進行している温暖化は、出来るだけ早く食い止めることが重要だと思います。
「雁(ガン)」という漢字は、「ひとつの家(厂)」の中に「人(イ)」と「鳥(隹)」が一緒にいる様子を表しています。
家族を大切にする雁は、人間にとって親しみやすい鳥であり、人の暮らしに関わりの深い鳥であることを表しています。

温暖化の問題というのは、とても見えにくい問題ですが、環境に敏感なガンたちと共生することによって、この問題を感じ、理解していくことが大切だと思います。

温暖化の問題は、人間が作り出した問題です。
これは私たち一人ひとり自分の問題だと受け止めて、行動で示していくということが必要だと感じています。
Masayuki Kurechi
Masayuki Kurechi
© WWF Japan / Masayuki Kurechi Enlarge
Greater White-fronted Goose
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Greater White-fronted Goose
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© WWF Japan / Masayuki Kurechi Enlarge
Greater White-fronted Goose
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